今回は、経営コンサルタントとして著名な大前研一氏が代表を務める「ビジネス・ブレークスルー」についてまとめたいと思います。
ビジネス・ブレークスルー(BBT)の歴史は意外と長く、1998年の設立。
大前氏がマッキンゼーを退職したのが1994年なので、それから4年後に立ち上げられたことになります。
2005年には国内初の遠隔教育によるMBAプログラムとして大学院を開き、2010年には大学も開校。
2010年以降の業績は伸び続け、2018/3期には売上55億円、営業利益4億円に達することが見込まれています。
今回のエントリでは、そもそも大前氏がどのような人生を歩んできたかを時系列で整理した上で、ビジネス・ブレイクスルーの事業についてまとめたいと思います。
大前研一氏は1943年生まれで、福岡県出身。
早稲田大の理工学部を卒業したのち、東工大大学院の原子核工学科で修士号をとった後、アメリカのMITに進みます。
1970年にMITで博士号を取得すると、日立製作所に入社。
マッキンゼー入社と『企業参謀』
そして、1972年には、前年に設立されたばかりのマッキンゼー日本支社に入社します。
当時、日本企業にとって「コンサルタント」という職業は一般的なものではなく、営業は難航していました。
開設から数年たつと、日本支社は撤退寸前だったそうです。
そんな中、大前氏が自ら学びながら書きためたノートが1975年に「企業参謀」として出版されます。
「企業参謀」は飛ぶように売れ、「我が社にも企業参謀が必要」と、企業からの問い合わせが殺到するようになります。
当時の大前氏はヒラのアソシエイトに過ぎなかったにも関わらず、名指しでミーティングの要望が持ち込まれるまでに。
そうすると、当然ながら大前氏の地位は上がります。
入社して数年にも関わらず、名だたる日本企業をクライアントに獲得していくということで、大前氏はいきなりパートナー(共同経営者)に昇格する話が出るまでに。
経営コンサルと言えば、就活生の間でもまず「マッキンゼー」の名前が上がりますが、大前氏が「企業参謀」を出版していなければ、現在の姿はなかったのかもしれません。
教育活動へのシフトと、ビジネス・ブレークスルーの創業
1994年に20年以上勤めたマッキンゼーを退職すると、人材発掘・育成の場として「一新塾」を設立。
1996年には起業家の養成塾として「アタッカーズ・ビジネス・スクール」を開設したり、翌年には名門大学のUCLAで教授に就任するなど、教育活動にシフトします。
そんな流れの中で1998年に設立されたのが(株)ビジネス・ブレークスルーで、当初から「遠隔教育」をテーマとして事業を開始します。
同年、スカパーで「ビジネス・ブレークスルー・チャンネル」24時間放送も開始。
大学院の認可を取得
2004年には文部科学省よりビジネス・ブレークスルー大学院大学の認可を取得。正式な大学院としての活動が認められます。
2005年に「ビジネス・ブレークスルー大学院大学」を開学すると、12月には東証マザーズに上場。
その後も成長を続け、2016年には東証一部に指定されています。
ビジネス・ブレークスルーの創業は大前研一氏の半生と切ってもきれない関係にあります。
それでは、現在提供する事業はどのように分類されるのでしょうか。
有価証券報告書を見ると、以下の3つに分類されています。
① マネジメント教育サービス
「大前経営塾」やMBAプログラムなどの、遠隔教育プログラムと、「向研会」や企業研修、「アタッカーズ・ビジネススクール」などの集合教育プログラムがあります。
その他、カスタマイズプログラムも1ヶ月単位で開催しているようです。
この中に、ビジネス・ブレークスルー大学・大学院のプログラムも含まれています。
また、オーストラリアのボンド大学と提携したプログラムも提供。
② 経営コンテンツメディアサービス
二つ目の経営コンテンツメディアサービスは、当初から行なっている「スカパー」での会員制視聴サービスや、ビジネス講義の映像を講座単位で視聴できる「ラーニングマーケット」、代表の大前氏による「大前研一通信」など。
③ プラットフォームサービス
三つ目のプラットフォームサービスとしては、幼少期から高校までを対象とした「アオバジャパン・インターナショナルスクール」を子会社で運営。
1歳から6歳までを対象とした「JCQバイリンガル幼児園」「サマーヒルインターナショナルスクール」も展開しています。
三つの事業それぞれの売上高を見てみましょう。
2014/3期まではマネジメント教育サービスの売上がほとんどでしたが、それ以降はプラットフォームサービスの売上が急激に拡大しています。
メインのマネジメント教育サービスの売上も堅調ですが、ここ数年の急成長はプラットフォームサービスの買収によって作られたものであることが分かります。
買収した企業の一覧
・2013年10月:「アオバジャパン・インターナショナルスクール」を運営する(株)アオバインターナショナルエデュケイショナルシステムズを子会社化
・2014年11月:(株)アオバインターナショナルエデュケイショナルシステムズが「JCQバイリンガル幼児園」を運営する現代幼児基礎教育開発(株)を子会社化
・2015年10月:株)アオバインターナショナルエデュケイショナルシステムズが「サマーヒルインターナショナルスクール」を運営するSummerhill Internationalを子会社化
ちなみに、アオバジャパン・インターナショナルスクールは国際バカロレア(IB)の全プログラムの認定校となっているとのこと。
ますます成長の勢いを増しているビジネス・ブレークスルーですが、教育企業としてどんな方向に向かっているのでしょうか。
(会社ページ)
日本の教育産業市場はおよそ2.4兆円の規模があると言われています。
これは、化粧品(2.5兆円)よりも少し小さく、出版(1.5兆円)よりも大きな市場です。決してニッチ市場ではありません。
その中で、ビジネスブレークスルーがメイン事業に据えている「遠隔教育市場」は1000億円に満たない水準。アメリカではおよそ1兆円の規模があるとのことで、まだ大きな差があります。
GDPや人口と比べても、まだまだ成長の余地があるはずだ、というのがビジネス・ブレークスルーのポジショニングであり、目指す方向性であるということが言えそうです。
また、いわゆる「生涯学習」と言われる分野にも事業を展開しています。
日本の生涯学習人口は、1989年にはのべ2200万人だったのが、2001年にはのべ3000万人を突破。
高齢化が進んでいくことも、この傾向に拍車をかけそうです。
また、「これからのBBT」として次の二つを成長戦略に掲げています。
① 生涯教育プラットフォームの構築
ビジネス・ブレークスルーでは、幼児教育から、初等教育、マネジメント教育に至るまで、「ゆりかごから経営者まで」を教育フェーズとして扱っています。
それにより、彼らは「世界で活躍するグローバルリーダーを育成する「生涯教育プラットフォーム」が完成した」と銘打っており、その場を触媒としてグローバルリーダーを量産したいとのこと。
確かに、幼少期から育て続けた人材を大学・大学院にも入れて、いわゆる「グローバル人材」に育てることができれば、社会的にはめちゃめちゃ意義があるし、コミュニティとしてもとても強くなります。
② 全キャンパスでの国際バカロレア(IB)取得を目指す
2016年に「アオバジャパン・インターナショナルスクール」が国際バカロレア(IB)中等教育プログラム(MYP)の認定校に、2017年3月には「JCQバイリンガル幼児園」が初等教育プログラム(PYP)の認定校として承認されています。
そして、今後は全てのキャンパスで国際バカロレア(IB)認定をゲットすることを目指しているとのこと。
日本政府も、2018年までにIB認定校を200校まで増加することを目指しており、行政からの追い風も受けられそうです。
そして、中長期的にはグローバル教育のノウハウと、優れたコンテンツ、遠隔教育システムを融合することで、世界標準の教育プラットフォームを目指していくとのこと。
ビジネス・ブレークスルーの事業内容を見ると、「生涯学習プラットフォーム」というキーワードで非常に軸が一本通っているというか、目指している方向性が明確だなと感じます。
実際、冒頭で見たように業績成長は加速しています。
最後に、その他の事業数値もチェックしてみましょう。
コスト構造
コスト構造を見ると、まず目立つのは売上原価率の変化です。この6年で33.3%から47.6%へと、大きく上昇しています。
その他のコストは売上に対してむしろ減少しているものが多く、営業利益率が低下傾向にあるのも原価率の上昇が原因と言えます。
セグメント利益率
セグメント利益率を見ると、メインのマネジメント教育サービスの利益率が明らかに低下しています。
有価証券報告書の説明を見ると、法人向けサービスのために営業人員を増加したこと、一部の個人向けサービスの調子が悪かったために減益になったとのこと。
資産の内訳
総資産は68億円あり、そのうち現預金は15億円ほど。
以外にも有形固定資産が26億円もあります。そのうち11.5億円は「建物及び構築物」で、10億円近くの土地を計上。キャンパスでしょうね。
負債と純資産
バランスシートの反対側を見ると、資本金と資本剰余金がそれぞれ18億円と15.6億円。かなりの部分を占めています。
利益剰余金は12.4億円あり、借入金は合計で5.3億円ほど。バランスが良い感じですね。
キャッシュフロー
営業キャッシュフローは右肩上がりとは行っていないようです。
多い年で6億円強。
過去2年で投資キャッシュフローが大きくなっているのは、M&Aを積極化したため。
左が2015/3期、右が2016/3期の投資キャッシュフローです。足りない分は借入で補っています。
フリーキャッシュフロー
過去6年のうち、3年でフリーキャッシュフローがマイナスになっています。
「大前氏の通信制大学」としてのイメージが強いビジネス・ブレークスルーですが、その中身を見ると、国際バカロレアに認定された教育期間を持っていたり、幼児向け英語教育も行なっている創業教育グループになっています。
情報化社会がますます進んでいく中で、「教育」というのは世界的にもさらに大きなトピックになっていくのではないでしょうか。