日本進出したユニコーン企業「Remote」グローバルで柔軟な労働力は企業課題をいかに解決するか?

優秀な人材の不足は、どんな企業にとっても悩みの種だ。

とりわけ日本において足りていないのが、いわゆるデジタル人材。プロダクトマネジャーやデザイナー、エンジニアに至るまで、DXを推進するには欠かせない人たちだ。そのような領域でトップタレントを雇うことは、多くの企業にとって非常にハードルが高い。

同様の課題は日本以外にもある。優秀なデジタル人材を採用することは、世界中、大中小あらゆる企業にとっての重要テーマとすら言える。そんな中で日本に進出したのが、ユニコーン企業の「Remote」だ。

Remoteが展開するのは、海外人材の雇用を円滑化するプロダクト。採用する際の契約周りや、給与支払いなどを簡素にしてくれる。海外にいる優秀な人材を見つけるための採用プラットフォームとしての側面もある。海外進出やグローバルチームの組成に躊躇する会社にとっては、うってつけの存在だ。

日本企業にとってのRemoteは、どのようにキラーソリューションとなるうるのか。今回ストレイナーは、共同創業者の一人であるマルセロ・リブレ(Marcelo Lebre)氏にインタビューする機会を得た。

異国の共同創業者と起業

Remoteを創業する前のマルセロ氏はリスボン(ポルトガル)に住み、いくつものテクノロジー企業で技術幹部やCTOを務めていた。

あるときマルセロ氏は、当時のガールフレンド(現在の妻)から「オランダから友達が来たからコーヒーを飲みにいこう。彼氏もいるらしい」と言われ、気 は進まなかったがついていった。そこで出会った相手こそ、Remoteの共同創業者で現在はCEOを務めるヨブ(Job van der Voort)氏だった。

マルセロ・リブレ氏=Remote

話していると、思いのほか気が合うことに気づいた。当時ヨブ氏はテクノロジー企業のGitLabでプロダクト幹部を務めており、どちらも「ギーク」。数日後、ヨブ氏がマルセロ氏にメールを送った。自分が持っているプロダクトのアイデアを形にしたいと相談してきたのだ。

いくつものプロダクトを作ったが、世間には発表しなかった。開発自体が楽しかったこともあるが、もっと現実的な問題もあった。製品をリリースしてお金を稼ぐには、会社を作らなければならない。互いの国をまたがって会社を作るのは、非常に骨が折れることだった。

『EOR』を立ち上げる原体験

テクノロジー業界では広く知られることだが、GitLabは「世界的フルリモート」を特徴とする会社だ。世界中から優秀なエンジニアを採用し、実際に業務を回していく上で、ヨブ氏自身も何度も面倒な場面に直面していた。

地元で採用すると、人材の選択肢が限られる。他の地域で良い人材を見つけても、移住させるのは難儀だ。解決するにはリモートワークしかないが、異国で採用するには手続き面が障壁となる。ヨブ氏の経験では、ドイツのプロダクトマネジャーを雇うのに一年かけたこともあった。

このような課題を解決することに可能性があることは、二人にとって極めて明らかであるように感じられた。解決するための知識と能力は十分にある。こうして2018年末、二人は会社を辞めて起業することに決めた。

2019年に創業したRemoteは、EOR(Employer of Record)事業の構築に取り組んだ。企業に代わり、法令を遵守しながら給与計算や福利厚生の提供、納税申告などの人事業務全般を担うのがEORだ。海外人材を雇用する際の面倒ごとを、Remoteが代わりに引き受けてくれる。

Remote社の「非同期」な組織運営

当初はたった二人、自己資金での起業だった。しかも、どちらもビジネスパーソンというより、モノを作るタイプの人たち。それにも関わらず、法的側面の重たいサービスをイチから構築し、サービスを立ち上げた。

従来型のEORはそれまでも存在したが、多くはスプレッドシートなどで管理するだけ。実際の雇用まで何か月もかかることが多かった。Remoteは、そんなEORを「再発明」し、雇用契約から給与支払いまで丸ごとカバー。テクノロジーを活用し、最短数時間で海外人材を雇用できるまでになった。

現在のRemoteは、1,800人を超える従業員を世界中に抱える。2022年には3億ドルを調達し、評価額は約30億ドルにのぼった。ところが「本社」は存在せず、創業者の二人もフルリモート勤務。CEOのヨブ氏はオランダにいるし、マルセロ氏はサンフランシスコに住んでいる。

果たしてどうしたら、そのような組織運営が可能なのだろうか。そんな疑問をぶつけると、マルセロ氏は「非同期的な働き方」について述べた。極めてエンジニア的とも言える考え方だ。

グローバルに組織が散らばっていると、必ず時差の問題に直面する。アメリカと日本にメンバーがそれぞれいれば、タイムゾーン的に同時に働くことは難しい。そこで「非同期的」にタスクを進めるマネジメントが必要になる。

同社の場合、まず可能な限りミーティングの数を減らす。仕事内容を小さなタスクに分割し、メンバーに割り当てる。同僚がオンラインでない時間も多く存在するため、コミュニケーションの多くを「文字」で済ませる。必要に応じて、画面録画サービスも活用。送ったメッセージの返事は待たずに、自分のタスクに集中する。

このような仕事の考え方は、ソフトウェアの世界における「非同期処理」を連想させる。いわば、分散型非同期処理を世界規模で行うチーム。そこで重要なのは、他者を責めるのではなく、各メンバーが責任を持って自らの業務を遂行するオーナーシップであるという。

うまく回りさえすれば、これほど効率的な組織運営もない。リモートワークに必要なツールは十分に存在するし、ミーティングを極力減らして従業員が各々のタイミングで作業を進められる。マネジメントは、方向性を定めることに頭を集中すればいい。

ちなみに、Remote社のワーキングスタイルは「handbook.remote.com」にて公開されている。フルリモートで組織を作りたい企業にとっては必見の内容だ。

世界中のデジタル人材を活用する重要性

Remote社のような「非同期的」マネジメントこそ、組織経営の未来なのかもしれない。そう思えるほど、「世界規模でのフルリモート」の利点は大きい。

従来の採用環境について、Remoteは次のように表現する。「優秀な人材は世界中にいるが、その才能を活かせる機会は、まだ平等ではない。」企業側から見ても、海外人材を活用する具体的な手段が見えづらく、あまりにハードルが高かった。

EORによって海外雇用が簡単になれば、働く側の選択肢も広がる。日本のエンジニアが、米国や欧州のスタートアップのために働くことが増えるかもしれない。日本企業が海外のデジタル人材を雇用すれば、それまで難しかったような取り組みも可能になるだろう。

もちろん、企業側が組織運営の考え方を進化させる必要はある。日本の旧来的組織にとって、「非同期的」組織運営を行うのは必ずしも容易ではない。もっとも、成長著しいスタートアップ企業であれば、その限りではないはずだ。

コロナ禍ではリモートワークが急増し、その後は減ったようにも報じられる。しかし実際は、リモートワークの利便性を感じ、それを好む働き手は増えた。企業側がいくら強硬な姿勢を取ろうと、大きなトレンドを逆行させることは難しい。有能なデジタル人材にとって、フレキシブルな働き方はいくらでも選べるからだ。

逆にいうと、この変化に対応することさえできれば、どんな会社でもデジタル人材を雇用できるというチャンスが訪れた。Remoteの調査によれば、今や働き手の98%は「柔軟性」(flexibility)を重視する。多くの企業側に必要なのは、「意識の変化」だけなのかもしれない。

世界中から有能なデジタル人材を活用できれば、組織としてのアドバンテージは大きく、成長をドライブさせることができる。この重要性を真に理解するビジネスリーダーは、ぜひこの機会にRemoteの門を叩いてみてはいかがだろう。