前回の記事では「クリスマスの歴史」について改めて整理しました。
反響は大きくありませんでしたが、重要なのは今回。クリスマスが実際の経済にどのような影響を与えているのかについて考えてみたいと思います。
断っておきますが、こうしたイベントの「経済効果」について絶対的に正しい数値を示すのは不可能です。一見正しそうに見える統計データの裏には、数え切れないほどの「仮定」が埋め込まれます。
「経済効果は大体の計算だと思っていませんか?実は結構緻密なんです!」と書いてある本も見かけましたが、こういうのは本を売るためのアピール。
「緻密な計算」の前提条件自体に仮定が含まれると考えるのが、正しい態度だと思います。ましてや、複数統計を比較するとなると計算方法も違ったり、余計に難しい。
しかし、あらゆる活動がそうであるように、完璧じゃないからといって諦める理由にはなりません。かつて経済学者のケインズが言ったように、正確に間違うよりも、むしろ漠然と正しくありたい。
今回のエントリは、そうした態度で臨みたいと思います。
日刊ゲンダイの過去記事によると、2014年のクリスマスの経済効果は6,740億円。
ハロウィンの1,100億円、バレンタインデーの1,080億円、ホワイトデーの730億円など、多くの西洋系イベントと比べて圧倒的に大きいことが分かります。(ホワイトデーは日本由来だそうですが)
しかし、決して「日本最大」というわけではないようです。日本のイベントとして大きいのは「お正月」「お盆」「ゴールデンウィーク」あたり。
2019年のゴールデンウィーク10連休の経済効果は2.1兆円。正月とお盆については情報が見当たりませんが、日本人の多くが帰省することを考えれば、非常に大きいことは間違いないでしょう。
「経済効果」というものについて単純化して考えると、要するに「日本人が何人イベントに参加するか」「参加1人あたり、どのくらいの支出を行うか」に尽きるように思います。
そう考えると、正月やお盆、ゴールデンウィークといった帰省や旅行を伴うイベントの経済効果が大きいのは当然。地元を出た者なら誰もが知るところですが、帰省ラッシュでの航空券は通常時に比べて2倍前後の価格に跳ね上がります。
むしろ、「贈り物メイン」のクリスマスで何千億円もの経済効果があることの方が凄いとも言えます。
ここに、「第一生命経済研究所」が2005年に出したクリスマスの生産波及効果に関するレポートがあります。それによると、クリスマスの生産波及効果は1.1兆円。名目GDPに換算すると+7,424億円。
先ほどの数値と随分違いますが、一旦スルーしておきましょう。クリスマス関連の消費規模が縮小したのかもしれませんし、あるいは単に計算方法が違うのでしょう。
このレポートは、クリスマスの中でも「プレゼント」に着目しており、計算方法を含めて興味深い内容です。
試算の土台となったのが、マクロミルが2002年11月に行なったクリスマスに関するアンケート(成人男女528名が回答)。
プレゼント交換するか?という問いに「はい」と答えたのが33.5%、「まだわからない」は33.9%。「まだわからない」のうち、約半数が実際に交換すると仮定し、成人の購入割合を50.5%と想定。この時点で、だいぶドンブリ勘定ということが分かります。
アンケートでクリスマスプレゼントにかけた費用の総額は男性で「1万-2万円」が27.4%と最も多く、1万円以上が合計で5割を超えました。各レンジの平均額を回答率で加重平均することで、平均単価を17,637円と想定。同じように、女性は 11,662円と想定しました。
これらの単価に男女の成人人口(男性:約4,991万人、女性:約5,371万人)と、先ほどの「購入割合(50.5%)」を掛け合わせた結果が、直接効果とされる約7,601億円。
これに対して、直接効果の結果として、各産業に波及する経済効果を計算したのが「生産波及効果」1兆1,179億円です。
クリスマスの場合では、主に衣料に関連する小売業に発生するものと考え、2000年に総務省が出した「産業関連表」から、他産業への波及額を計算したのです。
「名目GDP換算」の7,424億円という値も、同様に「付加価値率」を掛け合わせることで計算したもの。
このように、経済統計の試算には数々の「仮定」がベースになっています。
可能な限り正確な値に近づけるべく、昔から経済学者やら政府機関が努力してきたわけですが、現実の数値は「神のみぞ知る」というのが実情であることは、冷静に考慮しておくべきでしょう。
気になるのは、上記データが10年以上前のものであることです。産業関連表など一部データは2000年のものだったりしますから、さすがにデータが古すぎる。
この14年で、おそらく日本人のクリスマス消費は大きく変わったはず。それを知るための包括的な論文は見つからないので、各年度の調査レポートを追っていくことで、傾向を探りましょう。
情報ソースとして一番良さそうだったのが、楽天インサイトの調査です。
2017年のレポートでは、全国の20代から60代の男女1,000にアンケート調査を行い、約半数がクリスマスをパートナー(配偶者・恋人など)と過ごす回答。
プレゼントとして人気だったのは「レストランなどの外食」。予算の平均額は8,959円で、2016年の12,075円から大幅に減少。楽天インサイトは2018年にも同様の調査を行なっており、予算の平均額は8,477円と、さらに減少。2019年には8,541円とやや持ち直しています。
これらのアンケートを行なったのは、楽天インサイトに登録しているモニター(約220万人)のうち1,000人。2019年、予算金額を答えているのはわずかに30人。前年は566人いたので、また随分と減りましたね...
少し話は脱線しますが、Eコマースや決済サービスなどが普及することによる真のインパクトは、こうした所にあるのかもしれません。
これまで部分的なアンケート調査でしか得られなかった、消費動向などのデータが、実際の行動ログとして掴める。そうなれば、今までより遥かに正確な数値が得られるのは間違いありません。
見てきた通り、正確な数字についてはなんとも言えないというのがクリスマス経済の現実です。一つ言えそうなのは、若者の減少が進むほどプレゼントの総数も減り、日本におけるクリスマスの経済インパクトも縮小しそうだということ。
とはいえ、成人1人当たり平均して1万円前後をクリスマスプレゼントのために使うというのは常識的な範囲ですし、大きく外れてはいなさそう。
総務省統計局によると、2019年7月時点で15歳から64歳までの日本の人口は7,518万人。このうち半分(3,759万人)がクリスマスプレゼントを購入するとして、その平均単価を1万円とすると3,759億円。
最後が一番ドンブリ勘定ではありますが、クリスマスの直接消費としては、これにプラスマイナス数千億円程度を見ていれば、間違いないのではないかと思います。