今回は、中国の教育テクノロジー企業「TAL Education」について調べてみたいと思います。
「TAL」という名前は「Tomorrow Advancing Life」の頭文字で、テクノロジー・ドリブンかつ高品質な教育サービスを提供。
2003年に「Xueersi」として教室を開講し、2010年にニューヨーク証券取引所に上場。同年に「Intelligent teaching system(ICS)」を公開。
2009/2期以降の業績推移を見てみます。
売上高は10億4309万ドル、営業利益として1億3459万ドルを稼いでいます。
驚くのは成長率の高さで、2017/2期の売上成長率は68%に達しています。
今回の記事では、TALがどんな事業を展開しているか、なぜこれほど高い売上成長率を実現しているのか、その裏側について探ってみたいと思います。
TALの事業は大きく3つから成り立っています。
一つ目は創業から行なっている小規模クラス(Small Classes)。小学校の学習を補助する「塾」としてのサービスを提供しています。
クラスの人数は12人から60人程度で、学力レベルごとに異なるクラスを展開。中国国内339ヵ所の学習センターと284ヶ所のサービスセンターで提供されています。
2010年に開始した「Intelligent Classroom System(ICS)」により、独自の教育コンテンツ(動画や音声な土)をオンラインで提供することができるようになったとのこと。
小規模クラスによる売上が全体の84%とかなりの比率を占めています。
二つ目の事業は「個別プレミアムサービス(Personalized Premium Services)」で、全体の11%の売上を占めています。こちらは107ヶ所の学習センターと109ヶ所のサービスセンターで展開。
三つ目は、2010年に開始したオンラインコースで、売上の5%を占めています。
当初は録画した授業動画を視聴できるのみでしたが、2015年に公開したTEPC(Teaching, Examination, Practice and Communication)では、ライブ授業など、双方向的なオンライン授業を受けられるように。
続いて、TALグループの財政状態についてチェックしてみます。まずは資産の内訳。
総資産18億ドルのうち、現金同等物が4.7億ドル。
そのほか、長期投資(Long-term Investments)が3.5億ドル、買収によるのれん(Goodwill)が2.7億ドルほどあります。
TALはホームページでも起業家向けのページを用意し、教育系ベンチャーへの出資に積極的であることを示しています。
続いて、資産の源泉である負債と自己資本の内訳を見てみましょう。
総資産18億ドルに対して負債が11億ドルと、テクノロジー企業としては負債比率が高めです。
社債(Bond payable)と長期借入金(Long-term debt)が2.25億ドルずつあります。
利益剰余金は4.2億ドル弱、資本剰余金(Additional paid-in capital)は1.4億ドルほどです。
ここで、TALグループのEV(企業価値)を計算してみましょう。
時価総額はここ2年間で大きく上昇し、144.79億ドルとなっています。
有利子負債は4.5億ドル、現金同等物は短期投資と合わせて7億ドルあるので、ネット有利子負債は-2.5億ドル。
以上から、EV(企業価値)は142.29億ドルと計算できます。
続いて、EVとキャッシュフローを比較してみましょう。まずはキャッシュフローを見てみます。
営業キャッシュフローは順調に増加してきており、2017/2期には3.6億ドルほどになっています。
投資キャッシュフローも増えてきていますが、この中には株式投資も含まれているため、設備投資だけに限ってフリーキャッシュフローを計算します。
2012/2期には設備投資がかさんで凹んでいますが、フリーキャッシュフローも概ね増加しています。
2017/2期には2.88億ドルものキャッシュを生み出していることになります。
EVは142.29億ドルなので、EV/FCF倍率は49.4倍ということになり、市場からの評価はかなり高いと言えます。
最後に、TALグループの今後の展望について考えてみます。
まずは市場環境です。
中国では、新しく生まれる赤ん坊の数が増加しています。
2016年には1790万人もの新生児が生まれたということで、さすが大国ですね。
一人っ子政策は2015年までで撤廃されたため、今後はさらに増える可能性があります。
北京だけでも20万人の新生児が誕生。
中国では、大学に入るために「高考(Gao Kao)」と呼ばれる統一試験が課せられ、そのストレスは並々ならぬものだと言います。
参考:16 stunning photos of China's insanely stressful college entrance exam process
そんな環境ですから、「より質の高い教育を受けさせたい」という親の願望の激しさは容易に想像がつきます。
TALでは、一流大学出身者を採用し、厳格な教育を施すことで教員スタッフの質を上げています。
それに、独自の教材を用意し、カリキュラムの中で継続的に改善していくことで、高い品質の教育サービスを作り上げています。
近年は、オンラインやモバイルのプラットフォームの開発にも力を入れています。
続いて、5つの成長戦略です。
・既存の地域に新しい学習センターを開く
・毎年4以上の新しい地域に参入
・科目やレベルごとの教材を充実させる
・プログラムを多様化しつつも、高価格を維持
・オンラインやモバイルコンテンツを磨き、エンゲージメントを高める
以上の5つを戦略としています。
オンライン教育サービスの売上はまだ小さいですが、年平均で38.2%、中でも「Xueersi.com」は前年から90.2%の成長率と、勢いが増しています。
2018年2Qの売上成長率も62%と高く、オンラインコースや個別指導の売上比率が上昇しています。
いかがでしたでしょうか。
今後、中国において見込まれる未成年人口の増加と、ストレスの大きな学歴社会、そして経済成長による中上流階級の増加を考えると、TALグループの見通しはしばらく明るいものと言えそうです。
中国社会自体にまだまだ謎が多いので、今後も調べながらチェックしていきたいと思います。
個人的にも中国にもっと頻繁に訪れて、知見を広めたいところです。