昨日、ソフトバンクグループの1Q決算が発表されました。
(決算説明資料)
以前からのことではありますが、今回も孫正義氏は「AI」について熱く語ってくれました。
スライド枚数は100枚ととても多かったので、この記事だけでポイントを押さえられることを目指します。
まずは全体像ですが、売上2兆2,728億円ということで4%の増収です。
スプリントは3%程度の減収ですが、ソフトバンク本体が4.6%の増収。
『ソフトバンク・ビジョン・ファンド』の影響を含まない利益指標である調整後EBITDAは、7,218億円で3%の増益。
中でもスプリントが11.9%の増益と、突出しています。
そして営業利益を見てみると、ビジョン・ファンドの存在感がとても大きくなります。
ビジョン・ファンドは2,399億円の営業利益で、前年から2倍以上に増えています。
この多くはインドの「Flipkart」をウォルマートへ売却することに合意したことで、未実現評価益1642億円を計上したというもの。
また、「WeWork」などの投資先の「含み益」が増加したことが含まれています。
そして「Arm China」の過半数を売却して合弁会社化したことで、一時的な株式譲渡益など1,164億円を計上しています。
具体的な内訳は、株式の51%を7億7520万ドルで売却したというもの。
参考:子会社(アーム)における 中国事業の合弁事業化に関するお知らせ
ビジョンファンドに関しては「どうせ含み益だろ」と思っていましたが、「Flipkart」の売却益が近いうちにドカンと入ってくることになりそう。
(過去の報道では「すでに売却した」という情報もありましたが、決算書には「未実現評価益」とあります)
ここまでが全体像ですが、続いてソフトバンク本体の通信事業について見てみます。
ソフトバンクは、単なる通信キャリアからの脱却をはかる『Beyond Carrier』戦略をかかげています。
これは、通信事業の顧客基盤を拡大しながら新規事業を創出することで、送客を含めた事業シナジーを生み出して行くというもの。
国内事業の営業利益は2,218億円で10%増えたとしていますが、前年度の数字は「新基準」によってぬりかえられています。(旧基準では2,204億円)
フリーキャッシュフロー についても同様で、前年の公開数値ではフリーキャッシュフロー 765億円と公開されていました。
しかし、その後「調整後」フリーキャッシュフロー という概念が導入され、上のような数値になっているようです。
調整後フリーキャッシュフロー は、フリーキャッシュフロー に携帯端末の割賦債権流動化による借入額を加算し、返済額を減算したものとのこと。
全体の傾向として言えるのは、2017年度に落ち込んでいた国内通信事業の収益性が復活してきたということ。
「土管」商売ともいわれる通信キャリアにとって、単価の減少は大きな痛手となりますが、ソフトバンクは生産性の向上で立ち向かおうとしています。
いわゆるホワイトカラーの業務自動化を行う「RPA(ロボット・プロセス・オートメーション)」は2,000を超える社内プロジェクトを走らせているとのこと。
Sprint事業については、継続的な改善が続いています。
利益指標の一つである調整後EBITDAは33億ドルと、5年で2倍以上に拡大。
営業利益も8億ドル(930億円)と、5年連続で黒字をマークしています。
今年度のEBITDAは120億ドルを突破する見込み。
CAPEX(資本支出)が50億ドルほどということになると、70億ドルのキャッシュフローを生み出せる計算となります。
まあ、順調にいけば近い将来に手放すことになる(T-mobileとの統合について米政府の承認待ち)わけですが。
ヤフーについては以前、単体でまとめたので割愛します。
Yahoo!ショッピング収益性改善の一方でスマホ決済戦争に突入する「ヤフー」2018年度1Q決算
2016年に買収したArmについても動きが出てきました。
ベースチップの出荷数は55億個となり、前年同期の47億チップから17%の増加。
2013年の累計出荷数は500億でしたが、これが2017年に1000億、2030年には1兆をこえると孫正義氏は試算しています。
また、Armを通じてデータ分析基盤の開発を行う『トレジャーデータ』を買収。
エンジニア界隈では有名ですが、トレジャーデータは日本人のチームが創業したシリコンバレーのスタートアップでした。
買収金額はBloomberg記事によるとおよそ6億ドル。
参考:SoftBank-Owned ARM Is Said to Agree to Buy Treasure Data
ArmのIoTプラットフォームに集まる膨大なデータを活用することで、IoT時代における新しいサービスを作り出そうとしています。
そして、ソフトバンク・ビジョン・ファンドです。
オフィススペースのシェアリングを行う『WeWork』のグローバルメンバー数は22万に達しています。
孫正義氏によれば、一人のメンバーでスマホ10回線分の収益をあげることができるそうです。
つまり、スマホ220万人分の継続的な顧客がすでにいるということ。
また、大企業の利用もどんどん進んでおり、全体の24%がすでにエンタープライズメンバーとのこと。
インドのホテルチェーン『OYO』もすごい成長を示しています。
部屋数は10万に達し、2年で96倍という爆発的な成長。
中国進出もうまくいっているようで、月次で2倍以上の拡大を続けています。
3ヶ月間の部屋の純増数としては、インドで3.4万、中国で4.7万にまで達しており、世界でも圧倒的なスピードで拡大しています。
OYOの画期的なところは、人工知能をつかった需要予測とダイナミックプライシングです。
『アパホテル』のモンスター版とも言うべきでしょうか。
孫正義氏は、このような人工知能による価格やオペレーションの最適化を大きな流れとして重視しています。
中国の貨物トラックのマッチングプラットフォーム『Full Truck Alliance』やヨーロッパの中古車マーケットプレイス『AUTO1.com』など、他の投資先でもこうした技術が使われています。
このようなソフトバンクグループの流れについて、孫正義氏は1999年に使ったスライドとともに説明してくれました。
ソフトバンクがミッションとしているのは「情報革命で人々を幸せに」ですが、それまでの流れとして上のような経緯があったとしていいます。
ざっくりいうと、まずデバイスの革新が起こり、それをきっかけにサービスの革新が起きるということが次々と起き続けているということ。
これは確かにその通りで、最近の事例でいえば2007年に「iPhone」が出てきたことでハードウェアの革新がおき、それに引き続いてFacebookからUberにいたるまで数多くのサービス企業が躍進しています。
孫正義氏によれば、次はこのことが人工知能のフィールドで起こるとしており、それらに投資しているのがビジョン・ファンドとのこと。
最後に、ソフトバンクの今後の大きな動きについて確認しておきましょう。
「ソフトバンク本体の上場」「スプリントの売却」の二つが挙げられます。
① ソフトバンク本体の上場
ソフトバンクグループは、2018年7月9日に東証に上場予備申請を行いました。
ソフトバンクは年間5,000億円ものキャッシュフローを生み出す事業体ですから、上場すればそれだけでかなりの企業価値となるはず。(10倍でも5兆円)
しかし、そもそもソフトバンク単体での上場を東証が許すのか、まだわからないところ。
仮に上場したとして、持株会社としてのソフトバンクグループへの評価がどう変わるのか注目です。
② スプリントの売却
スプリントはT-mobileとの合併がすでに合意に達しています。
取引の内容は、スプリント株1株あたりTモバイル株式0.10256株とのことで、完全なる株式交換とのこと。
スプリントの企業価値はおよそ590億ドル、統合後には1,460億ドルになると想定されています。
つまり、合併が成立したらソフトバンクグループはTモバイルの大株主となることとなります。