11月18日、米フィンテック企業の「Affirm Holdings」によるナスダックへの新規上場申請書類が開示された。
AffirmはPayPalの創業メンバー(いわゆるPayPalマフィア)であり、元CTOでもあるマックス・レブチンが創業した注目の企業だ。時価総額10億ドルを超える「ユニコーン企業」としても知られてきた。
提供するのは、いわゆる「後払い(Buy Now, Pay Later)」である。よく聞くビジネスと思うかもしれないが、そのアプローチが極めて興味深い。
今回は、申請書類に開示された情報を中心に、Affirmがどのような事業を展開しているのか、そのポテンシャルとともに考えてみよう。
マックス・レブチンの経歴は華々しい。
レブチンは1975年、旧ソ連統治下だったウクライナの首都キエフで生まれた。幼少時は医師に「長く生きられない」と言われるほど病弱だったが、母親の勧めもあり肺活量を広げるためにクラリネットを始めた。
1986年にはチェルノブイリでの原発事故が起こった。爆発のニュースを聞くと、家族はすぐマックスと兄弟を汽車に乗せ、クリミアに送った。
1991年、レブチン一家は米国に移住する。その直前にソ連が崩壊したため、有効なパスポートを持たない亡命者になってしまった。幸いにも米国は彼らを受け入れた。
イリノイ大学でコンピュータ科学を学んでいたレブチンは、早くも起業家としての道を歩み始めた。しかし事業はうまくいかなかったようで、次の機会を求めてシリコンバレーに移り住んだ。
そこで出会ったのが、VCとしての活動を開始していたピーター・ティールだ。『Fieldlink』という会社を共同設立し、PDA(携帯情報端末)に使うセキュリティ会社を創業した。
これが後に『Confinity』になり、イーロン・マスクの『X.com』と統合してPayPalとなる。レブチンにとっては実に5度目の起業だ。2002年に上場(その後eBayに売却)したとき、彼はまだ27歳だった。
その後、PayPalを去ったレブチンは再びスタートアップの世界に舞い戻る。2004年に設立した『Slide』はSNSで、2010年にGoogleから1.82億ドルで買収された。翌年にGoogleがSlideをクローズすると、レブチンも会社を去った。
2008年に結婚し、父親になっていたレブチンは2013年、排卵トラッカーの『Glow』をリリースする。
この頃のレブチンは『HVF Labs』で新規事業のインキュベーションに取り組んでいた。HVFは「Hard」「Valuable」「Fun」の頭文字。レブチンの"起業観"がよくわかる名前である。
この時期に創業したのが今回上場する『Affirm』だ。2012年の創業としているが、プロジェクトの存在が公になったのは2013年のこと。