先日、KDDIがソラコムを買収しました。KDDIは、ソフトバンクに隠れがちですが、昔からM&Aに積極的です。
KDDIは、国際電話のKDDと長距離電話のDDIと携帯電話のIDOが2000年に合併して誕生した通信キャリアですが、営業利益が通信キャリアとして唯一、減益になったことがありません。(18年連続!!)
そんなKDDIですが M&Aについていくつかのパターンがあり、後で触れたいと思います。
KDDIは、今後3年間で5000億円をM&Aに投入するそうです。
これは、KDDIが2012年以降のベンチャー投資額220億円(「Syn.alliance」の120億円、KDDI Open Innovation Fundの100億円 )の23倍にも当たります。
全てがベンチャー投資にいくとは限りませんが、とても興味深い数値だと思います。
ここで、KDDIのM&Aの歴史について見ていきたいと思います。
KOIFとは、KDDI Open Innovation Fundのことで、KDDIのVCによる案件のことです。
2018年3月 | エブリー | 持分法適用 | メディア |
2018年2月 | 大和証券グループ | JV | 金融(資産運用) |
2018年3月 | 日本エンブレース | 資本参加 | ヘルスケア |
2018年2月 | ラック | JV | セキュリティ |
2018年3月 | ティアフォー | 資本参加 | 自動運転 |
2017年12月 | ispace | 資本参加 | 宇宙 |
2017年11月 | イーオンHD | 買収 | 教育 |
2017年11月 | inagora | 資本参加 | EC |
2017年10月 | 野村総合研究所 | JV | SIer |
2017年8月 | REPLAY | KOIF投資 | |
2017年8月 | ソラコム | 買収 | IoT |
2017年7月 | Momentum | 買収 | アドテク |
2017年5月 | Telexistence | KOIF投資 | ロボット |
2017年5月 | XSHELL | KOIF投資 | IoT |
2017年3月 | CDNetworks | 売却 | CDN |
2017年3月 | イタンジ | KOIF投資 | 不動産 |
2017年2月 | Loco Partners | 買収 | EC(旅行) |
2017年2月 | ナノエッグ | KOIF投資 | バイオ |
2017年1月 | アイレット | 買収 | クラウド |
2016年12月 | Liquid | 資本参加 | 金融(決済) |
2016年12月 | ビッグローブ | 買収 | ISP |
2016年11月 | 運動通信社 | KOIF投資 | メディア |
2016年10月 | モバオク | 買収 | EC(モール) |
2016年8月 | エナリス | 資本参加 | 電力 |
2016年8月 | Mist technologies | 売却 | |
2016年6月 | Connehito | 買収 | メディア |
2016年5月 | ハコスコ | KOIF投資 | VR |
2016年4月 | AppBroadCast | 買収 | ゲーム |
2016年4月 | Loco Partners | KOIF投資 | EC(旅行) |
2015年12月 | ジュピターショップチャンネル | 買収 | メディア |
2015年12月 | ログリー | KOIF投資 | アドテク |
2015年11月 | 葵 | KOIF投資 | 教育 |
2015年9月 | アップベイダー | 買収 | アドテク |
2015年9月 | Socket | 買収 | アドテク |
2015年8月 | つみき | 売却 | メディア |
2015年8月 | Jibo | KOIF投資 | ロボット |
2015年6月 | アイリッジ | IPO | IoT |
2015年4月 | ライフネット生命 | 資本参加 | 金融(保険) |
2015年4月 | ルクサ | 買収 | EC |
2015年3月 | ソフトギア | KOIF投資 | ゲーム |
2015年3月 | August Home | KOIF投資 | IoT |
2015年2月 | Monohm | KOIF投資 | IoT |
2015年1月 | Mist technologies | KOIF投資 | |
2014年10月 | nanapi | 買収 | メディア |
2014年10月 | Vasily | 資本参加 | メディア |
2014年8月 | ナターシャ | 買収 | メディア |
2014年7月 | Issuu | KOIF投資 | パブリッシング共有サービス |
2014年7月 | Edmodo | KOIF投資 | 教育 |
2014年7月 | Pogoseat | KOIF投資 | EC |
2014年7月 | Venture Beat | KOIF投資 | メディア |
2014年7月 | リッチメディア | KOIF投資 | メディア |
2014年6月 | レアジョブ | IPO | 英会話 |
2014年6月 | クリーマ | KOIF投資 | EC |
2014年3月 | グノシー | 資本参加 | メディア |
2014年3月 | YourGolf Online | 買収 | メディア |
2014年2月 | ランサーズ | 資本参加 | クラウドソーシング |
2014年1月 | つみき | KOIF投資 | メディア |
2014年1月 | AppBroadCast | KOIF投資 | ゲーム |
2013年10月 | ルクサ | KOIF投資 | EC |
2013年9月 | アイリッジ | KOIF投資 | IoT |
2013年9月 | Moxtra | KOIF投資 | データ共有 |
2013年9月 | Plumzi | KOIF投資 | メディア |
2013年8月 | スケールアウト | 買収 | アドテク |
2013年8月 | 5Rocks | KOIF投資 | 解析 |
2013年8月 | アイピー・パワーシステムズ | 買収 | 電力 |
2013年7月 | nanapi | KOIF投資 | メディア |
2013年7月 | MONOCO | KOIF投資 | EC |
2013年7月 | Mutations Studio | KOIF投資 | ゲーム |
2013年7月 | エボルバーコールアドバンス | 買収 | コールセンター |
2013年6月 | レアジョブ | KOIF投資 | 英会話 |
2013年5月 | ぴあ | 資本参加 | チケット |
2013年4月 | Origami | KOIF投資 | 金融(決済) |
2013年2月 | Hailo Network Holdings | KOIF投資 | タクシー配送 |
2013年1月 | 3rdKind | KOIF投資 | ゲーム |
2013年 | ビットセラー | 買収 | コンテンツ |
2013年 | UBIK do Brasil Solucoes em Tecnologia | 買収 | |
2013年 | UBIK Japan | 買収 | |
2012年10月 | ジュピターテレコム | 買収 | CATV |
2012年9月 | 北ケーブルネットワーク | 買収 | CATV |
2012年8月 | TOLOT | KOIF投資 | フォトブック作成 |
2012年6月 | ジモティー | KOIF投資 | メディア |
2012年4月 | 熊谷ケーブルテレビ | 買収 | CATV |
2012年1月 | シンクランチ | 資本参加 | ランチ交流 |
2012年1月 | ギフティ | 資本参加 | EC |
2012年1月 | Telehouse Deutschland | 買収 | データセンター |
2012年1月 | Kleyer Real Estate | 買収 | データセンター |
2012年 | Beijing KKbar Co | 買収 | |
2011年11月 | CDNetworks | 資本参加 | CDN |
2011年7月 | ノボット | 買収 | アドテク |
2011年7月 | エボルバビジネスサポート | 買収 | 人材派遣 |
2011年6月 | コロプラ | 資本参加 | ゲーム |
2011年6月 | ウェブマネー | 買収 | 金融(電子マネー) |
2011年3月 | CNCI | 資本参加 | |
2010年12月 | KKBOX | 買収 | コンテンツ |
2010年10月 | ワイヤ・アンド・ワイヤレス | 資本参加 | 公衆無線LAN |
2010年2月 | ケーブルテレビ足立 | 買収 | CATV |
2010年1月 | ジュピターテレコム | 資本参加 | CATV |
2010年1月 | 沖縄通信ネットワーク | 買収 | FTTH |
2009年9月 | DMXテクノロジーズ・グループ | 資本参加 | SIer |
2009年9月 | DMX Technologies | 買収 | SIer |
2009年8月 | ネオス | 資本参加 | コンテンツ |
2009年4月 | JCN関東 | 買収 | CATV |
2009年4月 | 川越ケーブルビジョン | 買収 | CATV |
2008年1月 | 中部テレコミュニケーション | 買収 | CATV |
2008年 | ネットワーク・サポート・サービス | 買収 | |
2007年11月 | ラック | 資本参加 | セキュリティ |
2007年4月 | Servision | 買収 | レンタルサーバー |
2007年3月 | アクロディア | 資本参加 | IoT |
2007年1月 | 東京電力の光ネットワーク・カンパニー | 買収 | FTTH |
2006年9月 | ソケッツ | 資本参加 | コンテンツ |
2006年7月 | グリー | 資本参加 | ゲーム |
2006年3月 | ジャパンケーブルネットHD | 買収 | CATV |
2006年1月 | パワードコム | 買収 | FTTH |
2001年12月 | ギガプライズ | 資本参加 | ISP |
KDDIには、大きく3つのM&Aのパターンがあります。
KDDIのM&Aのパターンの1つ目は、クロスセルを目的としたCATVやFTTHの買収を2006年から開始します。
2006年までは、携帯電話の契約の純増が続いていたこととツーカーとの統合を行っていたため、大きなM&Aを行ってきませんでした。しかし、2006年頃には安定しきたためKDDIは、日本中のCATVやFTTHに関するM&Aを一気に加速させていきます。
CATVやFTTHを買収していたのは、CATV・電話・インターネットをクロスセリングをするためでした。
実は当時、CATV・固定電話・携帯電話・インターネットをクロスセルできるプレーヤーは当時誰もいませんでした。
なぜなら、CATV・固定電話・携帯電話・インターネットまでを一貫して提供しているプレーヤーがほとんどいなかったことと、一貫して提供しているプレーヤーとしてNTTがあったものの、法的なものからクロスセルができなかったためです。
そして、2006年から始まったCATVやFTTHに関する買収は、2012年に日本最大のジュピターテレコムを買収することで終了します。
買収によってインフラを整えたKDDIは、CATV・固定電話・携帯電話・インターネットをKDDIにまとめることで割引になる「auスマートバリュー」によって、業績を一気に拡大させています。
ただ、ここでスマホの普及による「キャリアの土管化」問題が発生します。そこでKDDIのM&Aのパターンの2つ目が出てきます。
KDDIのM&Aのパターンの2つ目は、スマホにのせるコンテンツの強化のためのM&Aです。
大きくメディア・アドテク・EC・ゲームの4つの領域で買収や出資を行っています。
まず、メディアやアドテクは、子会社のSyn.ホールディングスやグノシーへの出資が挙げられます。Syn.ホールディングスでは、メディアやアドテクのベンチャー企業に投資しつつ、一部の企業は買収しています。
これまでに、nanapiや「ママリ」のConnehito、ノボットなどを買収しています。
このSyn.ホールディングスは、ソフトバンクとヤフーの成功を意識したものとも取れますが、実は世界的にアドテクやメディアをキャリアが買収しています。
例えば、アメリカのベライゾンがYahooやAOL(傘下にTechCrunchやHuffPost)を買収していますし、シンガポールのSingtelがamobeeやAdconionやKonteraを買収しています。
通信キャリアがアドテクやメディアを買収する理由は、キャリアの持つユーザーデータを元に広告の精度をあげる事ができ、広告事業の売上を伸ばす事ができているためです。
(通常、キャリアがメディアを買収するという構図なはずなのですが、ソフトバンクの場合はメディアがキャリアを買収するという逆の構図になっていて面白いですね)
メディアやアドテクを強化しつつECを強化するためのM&Aも行っています。
これまでに、ルクサやモバオクや「relax」のLoco Partnersを買収してきており、「au経済圏」の流通総額は1.28兆円まで成長してきています。楽天の流通総額が3兆円であることを考えると、その大きさが伝わるかと思います。
また、ゲームにも多数出資しており、コロプラやグリーなどIPOの打率もかなり高いものになっています。
KDDIのM&Aのパターンの3つ目は、金融に関するM&Aです。
KDDIは、携帯キャリアとして唯一、銀行を子会社に持っているほか、Masterブランドのプリペイドカードで発行しています。そこに更に、2011年にウェブマネーと2015年にライフネット生命を買収する事で、金融コングロマリットとなっています。(証券は持ってないけど)
また昨今では、Origamiやliquidなどの決済の中でもアクワイアラーの方まで出資をしており、とても興味深い展開をしています。
通信キャリアが金融サービスを持つ事例は、アフリカでVodafoneがm-Pesaを提供していたり、インドでBharti AirtelがAitel Payment Bankを提供を開始した事例があるものの、世界でもあまりありません。
ですが日本の場合、携帯料金の支払いが後払いであることがほとんどでありキャリア決済という支払い方法が普及している事、生活における通信費の占める割合が年々高まっていること、金融に入り込むことでスイッチングコストが上がるなどの思惑から、通信キャリア各社が金融分野を強化しています。
ただ、銀行まで展開しているのは、KDDIのみです。ソフトバンクはかつて、日本債券銀行(現あおぞら銀行)のスポンサーとなっていましたが、様々な理由から売却してしまいましたし、子会社だったSBIHDとも全く関係がなくなってしまっています。NTTドコモもジャパンネット銀行に出資しているものの2.32%とマイノリティーの投資になってしまっています。
と、これまでKDDIのM&Aのパターンを3つ紹介してきましたが、ここに新たに増えそうだなと思うのが、IoT領域におけるM&Aです。
その代表例がソラコムであり、法人のプラットフォームを抑えた後にどういう展開をしていくのか。
いかがでしたでしょうか。
通信キャリアのM&Aというと、ソフトバンクのイメージが強いかもしれません。しかしKDDIでは、ソフトバンクとは異なった方向性でのM&Aを行いながら、地道にインフラを固めつつその上に「au経済圏」・Syn.ホールディングスを強化することによって、新たな収益源を作ろうとしています。
今後、M&Aに5000億円をつぎ込むKDDIに期待です。